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ルドルフ2世の驚異の世界展、感想~突き抜けた教養人の夢の国

東京(渋谷)会場へ行ってきました。内容が幅広すぎて、あたまフワフワしてますが、感想書きます。
ルドルフ2世展チラシ

【ルドルフ2世とコレクションの歴史】
ルドルフ2世は、在位(神聖ローマ帝国皇帝)1576年~1612年。
プラハを首都としていたのは、1583年~1612年。
この30年ほどの間に、想像と科学の帝国を作り上げました。
(監修者アラン・タピエ氏インタビューより)

その後、弟マティアスに帝位を追われるかたちで退位。
弟皇帝は首都をウィーンへ戻し、コレクションの一部も移動しますが、膨大すぎて移動し切れなかったものも多くあったそうです。

ルドルフ2世の死後、30年戦争が勃発、プラハに残っていたコレクションは散逸しました。
ただ、その後再発見された品も色々あります。
本展に来ているアルチンボルド作「ウェルトゥムヌス」も、再発見された作品のひとつです。

公式(会期は終了しました)
神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展|Bunkamura
神聖ローマ帝国皇帝 ルドルフ2世の驚異の世界展|佐川美術館

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感想です

大体展示順に行きます。
会場および音声ガイドの記憶が中心ですが、作品一覧も見てます。

平和な時代だったわけではない

まずは私が誤解してた事の訂正です。
ルドルフ2世の時代、平和な時代だったからこそ芸術や科学が発達した、と勝手に思ってましたが、実はそれほどでもなかったんです。

カトリックとプロテスタントの宗教対立に、領土を狙って侵入を繰り返すオスマントルコ、大航海時代で植民した先の統治、などなど。
大変な時代でした。完全に勉強不足。

ルドルフ2世は、バベルの塔の絵を何枚も所蔵していたそうで、そのうち二枚が会場に来ていました。
彼の苦悩が見えるようでした。
 

平和だったのは、ルドルフ2世の「宮廷の中」です。
彼自身は宗教に寛容であり、プラハという都市も、宗教に寛容な土地柄だったそうです。
そのため、多くの芸術家や学者が集まってきたそうです。
ウィーンからプラハに首都を移したことで、オスマントルコからもちょっと遠くて、戦火も来にくい立地だったようです。

収集癖は、ハプスブルクの血である

展覧会の冒頭に、ハプスブルク家の家系図と、数点の肖像画と人物紹介が書いてあります。
それを見てると、色々なところに、「これこれを集めていた」的な説明があります。

ルドルフ2世だけでなく、みんな(というほど全員でもないだろうけど)何かしら集めたい欲求があったんだな、と思うと、血は争えない感じがして面白いです。




ガリレオにつながる天文学

みんな名前くらいは知ってるであろう、ガリレオ・ガリレイ(1564-1642)。
地動説を唱えて、ローマ教皇に怒られたことも知られているかと。(当時は、キリスト教の世界観に沿っている天動説が当たり前でした。地動説は神への冒涜)

ルドルフ2世に仕えた天文学者(かつ占星術師)には、ティコ・ブラーエ(1546-1601)と、ヨハネス・ケプラー(1571-1630)がいて、彼らの働きが天文学を大きく発展させたとのことです。
これが地動説の発見につながります。
 

会場には、ガリレオの地動説の本「天文対話」や、望遠鏡、コンパスなども来ています。
ガリレオ以前の、天動説の頃の本や天球儀、または天動説と地動説の折衷案みたいな世界観の本も来てます。

当時は、世界の色々なことが分からないことだらけ。
占星術や錬金術、魔術といった、現代ではオカルトの方にくくられるような思想と、科学・化学のたぐいが、混然一体としていました。
境界があいまいだった、というわけです。
そんな、未知の世界、オカルト的な世界が、科学の世界へ変貌を遂げる様子が感じられて、私は面白いと思いました。

美術、アルチンボルドだけじゃなかった

アルチンボルド展ですっかり惚れてしまったせいで、私はこの人しか見えてない感がありましたが、全然それだけじゃなかったです。
普通にきれいな宗教画や人物画、風景画に静物画、細密画、たくさんありました。
ルドルフ2世のコレクションは、絵画に最も力が入っていた、とも聞いた記憶があります。

ルドルフ2世は、マニエリスム(ルネサンス後期とバロック期のはざまに、優美さを求めて極端な強調や歪曲に走った美術の傾向)を愛好した

どの絵にしても、世界を隅々まで見てやろうとする視線を感じます。
あるいは、細やかに意味が込められています。
寓意っていうそうですが。
 

宗教画に、時の皇帝を賛美する意味合いを込めるっていうのは、この時代以前にも行われていることで、それ自体は目新しいことではない気もします。
世界の収集を通して、描ける物が増えて、表現の幅が広がったのが、特徴的なことなのかなと思いました。

世界の隅々まで描きたい

多種類の動物や鳥、花が集められている絵は、アルチンボルド作品と同じものを感じました。
いずれも皇帝のコレクションを表現して、自慢する・知らしめる目的、なのでしょう。きっと。
 

生き生きとした動物や、光の加減が美しい、ルーラント・サーフェリー(1576-1639)。
花瓶一杯の花が印象強いヤン・ブリューゲル(1568-1625)。

どちらも公式サイトに少し作品が紹介されていますが、実物はほんと細かかったです。
お約束の「描かれている植物/動物リスト」も展示されてましたし。
描き込み、すごすぎ。

サーフェリー作品の、光と影のコントラストは、同時代のカラヴァッジョ作品とも似たものを感じました。(←カラヴァッジョも好き)
 

それから、本展の看板、ジュゼッペ・アルチンボルド(1527-1593)です。
本人の作品は「ウェルトゥムヌス」1点だけですが、他に追随者の作品も何点か来てました。

今回は、ルドルフ2世の普通の肖像画と並べてあるものだから、めっちゃ見比べました。
アルチンボルド、やっぱすごい、と再認識します。
目立つ鼻、血色良いほっぺ、広めの額、突き出した下唇に下あご・・・
肖像画と並べても、似てますもん。
 

アルチンボルドは、100年後の画家にも影響を与え続けていたそうで、そうやって影響を受けた人の作品も来ていました。
しかしながら、アルチンボルド本人の作品と比べてしまうと、どうしてもへたっぴに見えてしまいます。
決して本当に下手ではなくて、一つ一つの果物や花は良く描けているんですが、全体のバランスがなんとも、ムズムズします。
アルチンボルドすごい。(そればっかり)




世界中からの収集物

このへん時間がなくなってきたので、駆け足で眺めました。
大きな貝殻を金で装飾したり、精緻な細工のからくり時計がコレクターアイテムだったり、当時の珍しいもの意識・美意識が感じられます。
 

また、正体もわからず集めたものの例として、イッカクの角が展示されていました。
海の動物の角ですが、当時はユニコーンの角と銘打って飾られていたそうです。
その後、正体が分かって、説明する絵も描かれて・・・みたいな。

現実と虚構が混然一体としつつ、徐々に現実が明らかになっていく様子が、ここからも感じられました。

濃厚でした

会場自体は、決して広すぎることはないんですが。
展示品それぞれが意味や背景を持っているのはもちろん、それが多分野に渡るものだから、けっこうな見ごたえがありました。
今日の自然科学や化学の原点、全部ここなんじゃね? って勢いです。(化学や錬金術関係は、本だけだったので、展示の印象としては弱いですが・・・)

絵画や細密画にしても、描き込みが細かすぎます。本も細かいです。
学者や芸術家が心血注いで、ものによってはマジで生涯をかけて作られたものが、こんなに集まっていることに狂気すら感じました。
当時のプラハの宮廷はどれほどのものだったのかと。
ぜんぶ理解しようとしたら、多分あたま爆発します。

逆に言うと、興味の範囲があまりに広いので、誰でも、何かしら、響くテーマはあるんじゃないかと思いました。
ひとつでも「これは分かる!」ってものが見つかれば、きっと楽しく見られると思います。
 

ちなみに、「確かにルドルフ2世が所蔵していた」という品物は、意外と多くなかったです。(って旦那が言ってました)(品名パネルのそばに、収蔵していた/していたと思われる、といった注釈があります。私はあまり見てなかった)
ルドルフ2世の嗜好や趣味の方向性、あるいはそこからの発展、にも光が当たっている展覧会でした。
 

ルドルフ2世は、引きこもりとか、政治を放り出してたとか、マイナスな言われようもする皇帝ですが・・・
というか、政治に関しては、ハッキリ無能だったそうですが。
文化に多大な貢献があったのは、間違いないです。
文化を通して、争いのない世の中にしたい、みたいな理想も持っていたといいます。

公式サイトでは、ハプスブルク家のスーパー・オタクなんて表現もされていますが、これはただのオタクじゃないです。
只者じゃないです。




音声ガイドは初心者目線でした

安田顕さん、声がイイ! これだけでも聞く価値あり(←)
550円です。
 

公式サイトのインタビューで、音声ガイドの原稿を読んで印象が変わった絵がある、とおっしゃっています。
彼自身も、決して美術や科学を良く知っていらっしゃるわけではない、みたいです。(少なくとも本展に関しては)

だから、というか、語りかけがスッと理解しやすいです。

ちょっとディープな解説を期待している方には、物足りないかもしれませんが、私は楽しく聞けました。
脇話大量!
 

なお、音声ガイド以外にも、冒頭の展覧会紹介の映像が充実していました。
時代背景から皇帝の人柄まで、7分ほどだったかと。
これだけでも予習代わりになりそうです。

終盤にも、驚異の部屋の紹介4分間がありました。
ルドルフ2世が日本人になじみがないだけに、ていねいにガイドしてくれている印象を受けました。

会場の様子(渋谷会場)

会場内、22℃設定とのことで、この時期(2月)は結構暑かったです。
私はダウンコートもロッカーに預けてしまって、室内着くらいの格好で見て回りました。
入り口でブランケットの貸し出しもされていたので、コートだと暑いけど脱ぐと寒い・・・って場合は借りたらよいでしょう。

混み具合・所要時間

平日の朝一番に行きましたが、会場内はそれほど混んでおらず、ゆっくりじっくり眺めることができました。
所要時間は、主人の時間に合わせて2時間ほどで回りましたが(午後から仕事だったので)、ちょっと足りなかったです。
一人で時間の融通が利くなら、2.5~3時間くらい掛けたと思います。
濃厚すぎるんだ!

コインロッカーは、100円不要です

展覧会入り口を入って、すぐ右側にコインロッカーコーナーがあります。

100円を入れて、最後に返ってくる、というパターンが多いですが、bunkamuraのはそれも要りませんでした。
もはやコインロッカーではない、ただのロッカーです。
使いやすいです。

最後、音声ガイドを返した先の右側、物販コーナーの脇から、荷物を回収しに入れます。
 

ちなみに、フィリップ・ハースの撮影OKの立体作品は、音声ガイドを返すところのそばです。
「冬」が、渋カッコいいです。
フィリップ・ハース「冬」

「春」~「秋」は、ちょっと目が怖かったりしました。(ごめんなさい)
フィリップ・ハース「春」「夏」「秋」
原作であるアルチンボルドの絵が、いかに絶妙なバランスで描かれているか、改めて感心します。
 

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