以前、当ブログで紹介した、小説「横浜駅SF」。
続編が出たり、漫画版も刊行中だったり、第38回日本SF大賞(2018年2月選考)の最終候補に選ばれるなど、話題は続いています。
実在の横浜駅では、この小説をネタにした謎解きゲームも始まっちゃいました。
2019年3月1日まで1年間行われています。
で、横浜駅SFの2冊目の感想を書いていなかった、と思いつきました。
1冊目や、他の作品も並べて、ざっくりと感想を書こうと思います。(新作の追記もあります)
「横浜駅SF」
1冊目、本編です。
自己増殖する横浜駅に覆われてしまった日本列島の話。
話の流れ自体は王道で、ひたすら世界設定に笑ってた印象が強いです。
エレベーターが「生える」とか、自動改札が「歩く」とか・・・
発想が面白すぎるし、そのノリでここまで膨らませてしまうのが、ほんとすごいです。
呆れを通り越して称賛する勢いです。
「横浜駅SF 全国版」
2冊目は、外伝的な中編が4本収録されています。
1冊目より、SF! って感じが前面に出ていたと思います。
冒険あり、自然災害あり、謎解きあり、人工知能の思考の深淵みたいなのまで。
バラエティ豊かで、1冊目より満足度が上だった気すらします。
あと、地元ネタも色々と追加投入されていました。熊本県のキャラ「くまモン」がトンデモ解釈されてるのは爆笑しました。(作中人物は大まじめ)
「重力アルケミック」
理系大学生の青春物です。
理系あるあるみたいのも出てきて面白いです。
世界設定としては、重力の元となる「重素」を採掘しすぎたせいで、地球が膨張してます。
この設定ひとつで、世界のいろいろなことが、現実と比べて書き換わっていて、上手いなーと思いました。
Web小説「未来職安」
AIが発達して人の仕事がなくなり、労働者は人口の1%。そんな社会で、人に仕事を紹介する「職安」を舞台にした話です。
設定こそ未来ですが、物語はお仕事ものだし、良い感じに「ゆるい」しで、万人向け感がしました。
猫所長はかわいいし。
それでもこっちの世界の用語が、意味を変えて出てくるので面白いです。
「社会人」が一種の差別用語、だっけ。
加筆して書籍化に向かっているそうです。
カクヨム掲載の短編と意外なつながりがあります。
追記:
2018/7/20(金)に、書籍版が発売されました!
SFマガジン2018年4月号掲載短編「宇宙ラーメン重油味」
これ笑いました。
シリコーン製の麺って。
原子炉が芋煮会で予約済みって。
宇宙の生物、多様すぎます。
作者の生物学者の側面が発揮されているようです。
あとがき
どの作品にも共通するのが、この世界にある言葉や物事を、別の意味づけや理由づけで、しれっと置き換えてくれちゃうこと。湯葉氏の真骨頂だと思っています。
その柔軟な発想が、ギャグみたいだったりばかみたいだったりしつつ、作品世界としてはつじつまが合っている、筋が通っている。だから、ある意味安心して笑えます。
で、こっちの世界に片足は残っているので、想像しやすくて楽しいです。
気持ち良く騙されつつ、読んでいる自分の頭も柔軟になる気分がします。
あー、面白い!
終わります。
追記:オートマン
湯葉氏初のマンガ原作です。講談社の「コミックDAYS」というサイトおよびアプリで連載中です。
2018年の名古屋。国内最大の自動者メーカー「ミカワ自動者工業」の業務は、プラスチック製の有機人形に人間の原形質を注入し、産業機械である「自動者」を製造することである。希代の作家が漫画原作初挑戦のチューブ会社員SF。
ここでも日本語がゲシュタルト崩壊起こしてます。そのくせ、深いです。工業ぽい所から始まって、さまざまな社会問題や、生命倫理みたいなところに踏み込んでいきます。読み返すたびに面白い!
作画は中村ミリュウさん。(初めて拝見しました)
SFらしくない、ちょっとホワンとした絵柄に見えましたが、何というかツボを押さえていて、安心して読めます。読み進めるほどに好きになっています。
現在WEB上では、第2話までと、最新話の一歩手前が無料公開されています。
紙書籍が2019/1/9発売予定です!
追記:NOVA 2019年春号
大御所から新人まで10名の作家が書いた、すべて書き下ろしのSF短編集です。(文庫です)
湯葉氏の作品は「まず牛を球とします。」
牛は食べたいが、動物は殺したくない。そんな人類の夢が実現した世界の物語。
バイオ工業の話かと思いきや、話題があっち行ってこっち行って、「生命とは」「人間とは」みたいな深い話まで突っ込んでいくのに、何だか球から離れないのがおかしくておかしくて。
面白かったです。
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